行動経済学者のダン・アリエリーは、『何かを好きになったり嫌いになったりする時、人間は対象物そのものを見て好き嫌いを決めているわけではなく、あらかじめ好きになりたいものや嫌いになりたいものはある程度決まっているのではないか』という仮説をたて実験を行った。
その実験は、大学のキャンパス内のバーに集めた被験者にビールの飲み比べをしてもらうというものだ。その飲み比べでは、普通のビールとこっそり食用酢を何滴か落としたビールを使用した。
被験者には一方のビールに食用酢が入っていることを知らせずに飲んでもらった。その結果、「どちらのビールが美味しかったか」と聞くとわずかながら『食用酢の入った』ビールの方が美味しいという被験者が多かった。
その後、被験者を変えて今度は「実はどちらかに食用酢を入れている」ことを告げて飲み比べを行ってもらった。一部の被験者には飲む前にその事実を告げ、残りの被験者には飲んだ後に告げた。
その結果、飲む前にどちらかに食用酢が入っていると知らされた被験者たちは70%が食用酢が入っていない普通のビールが美味しいと答えた。一方、飲んだ後にどちらかに食用酢が入っていたと知らされた被験者たちは、最初の被験者たちとほぼ同じ割合の50%強が食用酢の入ったビールが美味しいと答えた。
食用酢という不純物が入れられたという嫌悪感や「食用酢が入っているビールは不味いに違いない」というイメージ等が常に個人の体験に影響をおよぼすなら、この3つの結果はほぼ同じようになるはずだ。しかし、この結果からは『体験後』に得た情報は体験の質に影響しなかったと考えられる。
知りえる情報や個人の期待が体験に影響をおよぼすことはほぼ間違いないが、そのメカニズムはそれほど単純なものではなさそうだ。
その24に続く
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