前回の最後に少しふれた道徳的なインセンティブが逆効果に働く場合のケースをご紹介したいと思います。
実験を行ったのは前回と同じ心理学者のロバート・チャルディーニ氏のグループ。場所はアリゾナ州の化石の森林公園。
この公園には、
あなたの遺産が毎日破壊されています。
一人ひとりが盗る化石木の量は少なくても、
積もり積もれば年間で14トンにもなるのです。
と書かれた看板が立てられており、これがこの公園が悩まされている問題だった。
そこでこの看板のメッセージに効果があるのかどうかを確かめるためにチャルディーニ氏は以下のような実験を行った。
①公園内の小道に化石木の小さなかけらをバラまいて、誰でも拾える状態にする。
②一部の小道に「盗らないで下さい」と書かれた看板を立て、それ以外の小道には何の看板も立てない。
結果は、3倍以上のかけらが看板を立てた小道で盗まれた。
チャルディーニ氏いわく
「公共サービスのメッセージはたいてい、社会的に望ましくない行動をしている人が大勢いることを伝えて、人々を望ましい方向に動かそうとする。『こんなにも多くの人が飲酒運転をしています。これを止めなくてはいけません』『脱税が横行しているから、罰金を上げましょう』というふうに。これはとても人間的だが、戦略としては間違っている。『あなたと同じような多くの人たちがこういうことをやっている』というメッセージが字幕で流れているようなもの。つまり望ましくない行動を正当化しているわけだ」
今回で言えば「盗らないで下さい」というメッセージは、
「そんなにたくさん盗られているなら私がひとつくらいもらってもいいだろう」
「禁止するということは価値があるものなのだろう」
というメッセージを逆に伝えている可能性がある訳です。
生身の人間はえてして予想外の行動に出るものです。メッセージを考える人達が考える「模範的な人間の理想行動」を訴えることが問題を起こす人間に効果的なインセンティブとなるかは分かりません。先入観にとらわれず事実に基づくインセンティブを設定することが問題解決には必要です。
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