人の脳の未来予測 その26

 カリフォルニア大学サンディエゴ校の経済学者たちが、遊園地の売店に協力してもらい、顧客に商品の価格を決めさせるとどういったことになるかを検証した。

 

 

 検証実験が行われたのは、その遊園地で最も人気があるもののひとつであるジェットコースターのそばだった。被験者となる顧客がジェットコースターに乗って叫んでいる写真を取り、それを販売した。通常は13ドルで販売しているこの写真を「いくらで買うか」を顧客自身が決め、払いたい額を払って写真を買ってもらった。その際『収益の半分は慈善事業に寄付する』旨が伝えられた。

 

 

 顧客達は無料でその写真を手に入れることも出来たが、そういった人達はいなかった。2日間の実験の結果、寄付分を除いても通常の2倍の利益をこの写真販売で上げることができた。

 

 

 

 別の実験では、『収益の半分は慈善事業に寄付する』という点は同じだが、写真の販売価格は通常通りという条件で検証が行われた。すると販売利益は通常とほとんど変わらなかった

 

 

 

 この2つの販売方法から見えてくるものは、『寄付』という行為の優先順位を価格決定権により顧客が変更しているのではないかということだ。

 

 

 前者では価格決定権が顧客にある。つまり売る側が大損をする可能性もあるので、利益を第一に考えていないと顧客は解釈をする。反対に後者では、価格決定権は販売側のままだ。すると「これは販売促進の一環なんだろう」「元々がぼったくりなんじゃないのか」などと考え、利益が第一に考えられていると受け取ると考えられる。

 

 

 

 もちろんこういった手法が常に成功するわけではない。ただ販売者側がこういった利益を度外視した『社会的責任』を担おうとしている時には消費者も相応の『社会的責任』を感じて払う金額が増え、社会にも企業にもより多くの利益をもたらしてくれる場合があるということだ。

 

 

その27へ続く

 

前 その25

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人の脳の未来予測 その25

 2010年、ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学の研究者が、共同である実験を行った。

 

 

 その実験は被験者にある物語を聞いてもらい、その中の登場人物を倫理的に評価してもらうというものだった。物語の登場人物は故意もしくは偶然に他人に危害を加えたり、加えようとするのだが、被験者から見て登場人物は倫理的にどの程度悪いと思うかを回答してもらった。

 

 

【物語A】

A君が友人のB君にコーヒーを入れて、その中に砂糖を入れて出した。

ただし、本人は知らないがその砂糖は本当は『毒』で、コーヒーを飲んだB君は死んでしまう

 

【物語B】

C君が友人のD君にコーヒーを入れる時に、『毒』と書かれたラベルの貼られた白い粉の入った容器を目にする。そしてその粉をコーヒーの中に入れるが、実はその粉はただの砂糖でD君に害はない

 

 

殺意はなかったが、殺してしまったA君

 

殺意はあったが、結果として殺さなかったC君

 

 

結果として被験者が『倫理的に』悪いと感じたのはC君の方が多かった。


ただ法的に罰を受けるか受けないかはまた別の問題だ。そうでなければ、知らなければ薬物の密輸に手を貸したり、殺人を犯しても罪が軽いとなれば犯罪グループ等に利用されてしまう恐れがある(国によっては薬物の密輸や所持は重罪)



この実験からは人は倫理的な判断をする場合、結果だけでなく行動の意図や動機を基に考える傾向があるということを知って頂きたい。

 

 

その26へ続く

 

前 その24

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人の脳の未来予測 その24

他人の価値の影響

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人の脳の未来予測 その23

 行動経済学者のダン・アリエリーは、『何かを好きになったり嫌いになったりする時、人間は対象物そのものを見て好き嫌いを決めているわけではなく、あらかじめ好きになりたいものや嫌いになりたいものはある程度決まっているのではないか』という仮説をたて実験を行った。

 

 

 その実験は、大学のキャンパス内のバーに集めた被験者にビールの飲み比べをしてもらうというものだ。その飲み比べでは、普通のビールとこっそり食用酢を何滴か落としたビールを使用した。

 

 被験者には一方のビールに食用酢が入っていることを知らせずに飲んでもらった。その結果、「どちらのビールが美味しかったか」と聞くとわずかながら『食用酢の入った』ビールの方が美味しいという被験者が多かった。

 

 

 その後、被験者を変えて今度は「実はどちらかに食用酢を入れている」ことを告げて飲み比べを行ってもらった。一部の被験者には飲む前にその事実を告げ、残りの被験者には飲んだ後に告げた。

 

 その結果、飲む前にどちらかに食用酢が入っていると知らされた被験者たちは70%が食用酢が入っていない普通のビールが美味しいと答えた。一方、飲んだ後にどちらかに食用酢が入っていたと知らされた被験者たちは、最初の被験者たちとほぼ同じ割合の50%強が食用酢の入ったビールが美味しいと答えた。

 

 

 食用酢という不純物が入れられたという嫌悪感や「食用酢が入っているビールは不味いに違いない」というイメージ等が常に個人の体験に影響をおよぼすなら、この3つの結果はほぼ同じようになるはずだ。しかし、この結果からは『体験後』に得た情報は体験の質に影響しなかったと考えられる。

 

 

 知りえる情報や個人の期待が体験に影響をおよぼすことはほぼ間違いないが、そのメカニズムはそれほど単純なものではなさそうだ。

 

 

その24に続く

 

前 その22

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人の脳の未来予測 その22

 我々人間の主観的な体験は、良い方にも悪い方にも大きく変化し得る。それに大きく関わるのが『期待』である。観た映画を面白いと感じるか。同じ場所を同じように旅しても、特に何も感じなかったり「こんなに楽しいことは二度とない」と感じるか。事前の期待が大きいか小さいかが、それをかなりの割合で左右する


 

 2001年、ボルドー大学のワイン研究者フレデリ・ブロシェがフランス人ソムリエを被験者としてある実験を行った。この実験では値段的に高くもなく安くもない中程度のボルドーワインを使った。

 それを本来とは違う2種類のボトルに入れて被験者のソムリエに鑑定してもらった(ボトルの一方はグラン・クリュという高価なワインのもの。もう一方は安価なテーブルワイン)

 

 中身は同じなのだが、被験者のソムリエ達はグラン・クリュのボトルから注がれたワインを圧倒的に高く評価し、「素晴らしい。バランスが取れていて香りもいい」などと口々に褒めた。反対にテーブルワインのボトルから注がれたワインには「コクがないし、バランスも悪い。味が平板で飲んでもあまり印象に残らない」などと低い評価ばかり聞かれた。

 

 

 残念ながら、人間が味を感じるメカニズムと期待とは切り離すことが出来ない。それを逆手に取ってラベルやボトルを偽装するといった事件も多発している。また、ワインの品評会では審査員にラベルやボトルを一切見せないよう念入りに準備を行う。それでもやはり限界はある。結局最終的には「人それぞれ」なのかもしれない。

 

 

その23へ続く

 

前 その21

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人の脳の未来予測 その21

 ギャンブル依存症について研究を行っている神経薬理学者、マーティン・ザックは「ドーパミンは人間にやる気を起こさせる物質だが、そのメカニズムは決して単純ではない。これには『意味』というものが大きく関わってくる」と言っている。

 

 

 ドーパミンには、人それぞれに平常時の濃度、つまり基礎濃度というものがある。何らかの種類の報酬が得られそうな期待があると、そのレベルを上回ってドーパミンの量は増える。つまり、基礎濃度が低い人は、少し濃度が上がっただけでも十分に高揚する。しかし、ギャンブル依存症者は脳の報酬系によって快感を得ているうちにドーパミンの基礎濃度が上がる。そのため濃度がかなり高くならなければ高揚感が得られなくなってしまう

 

 またギャンブル依存症者の脳は、長期的な目標を達成することで得られる報酬に価値を見出せなくなる。子供の進学や将来のバカンスのための貯金などが出来ない。未来に得られる報酬では前頭葉のスイッチが入らず、期待感が生じないからだ。

 

 

 普通の人であれば、大きなリスクを冒すと全てを失う危険を強く感じるものだが、ギャンブル依存症者はその危険を知らせる信号も出なくなってしまう。ギャンブル依存症者はギャンブルを続けることでしか、高揚感を得られない。しかも、ドーパミンの基礎濃度が上がると賭け金の額を上げなくては物足りなくなる。そして同じ高揚感を味わうためには、徐々に賭け金を増やしていくしかない。

 それが行き着くと、ギャンブルで得られるかもしれないお金ではなく、ギャンブルをすることそのものが報酬となる

 

 

 薬物やアルコールの依存症者は薬物やアルコールを摂取できるという予感だけで摂取前から喜びを感じる。ギャンブル依存症者の感じる喜びもそれに似ている。

 ギャンブルで実際に大当たりが出なくても、出そうだという予感だけで喜びを感じることが出来る。

 

 

その22へ続く

 

前 その20

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人の脳の未来予測 その20

 賭けで惜しい負け方をした時に「もうすぐ当たるはず」と考えて気分が高揚する傾向は、ギャンブル依存症者だけではなく、ギャンブル好きの人にも広く見られる傾向だ。


 

 2010年、神経科学者のルーク・クラークはこの傾向について調べる実験を行った。この実験では、被験者にスロットマシンのテレビゲームをしてもらい、その時の脳内活動がどうなっているかを確かめた。

 

 6種類の絵柄が同じ順序で並べられたリールが3つという設定のスロットマシンでゲームを行い、絵柄が3つ一致すれば「大当たり」、2つ一致でも「当たり」というルールだった。

 この設定とルールで重要な点は、被験者が絵柄の数と順序を知っているため、大当たりとの差がどの程度か、どの程度「惜しい」のかが明確に分かることだ。

 

 勝った時に脳の報酬系が活性化するというのは、ギャンブル依存症者も一般の人もほとんど変わらない。違うのは、依存症者の場合「惜しい」結果が出た時にも中脳のドーパミンを分泌する部位が活性化する。その結果、関心の幅が狭まり、一つのことしか目が向かなくなる。もっとギャンブルをしたいということ以外、何も考えられなくなってしまう。

 

 ギャンブル依存症者は一般の人に較べ、ギャンブルの結果に関して総じて楽観的だ。まったく同じ賭けをしても、自分は当たると信じやすい。また高額な賞金や賞品に強く惹かれる傾向もある。

 

 

 2012年には、ギャンブル依存症者と一般の人の脳内活動を比較する実験が行われたが、ギャンブル依存症者の報酬系の働きは当たる確率の高低に関係なく、賞金の額が上がると急激に活発になることが分かった。

 

 普通は、大きな賭けになると損も大きくなるので警戒心が大きくなるが、ギャンブル依存症者は自分だけは損をしないと思い込んでしまう。損をした場合は、さらに大きな賭けで取り返そうとして、たいていは裏目に出て深みにはまってしまう。

 

 

その21へ続く

 

前 その19

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人の脳の未来予測 その19

 2011年に心理学者のアイリス・モースが発表した研究結果によると、幸福を重視する人ほど現在の自分を幸福だとは感じていないという傾向がある。

 

 

 モースの研究によると、幸福を重視する態度は、特にその人が大きなストレスを感じていない時によくない影響を及ぼすという。ストレスが少ないのは幸せなことのはずなのに、大きな幸福を求めるあまり、その状況を幸福とは感じられなくなってしまう。

 

 また、モースは幸福に関して新聞と映画を使った実験も行っている。

 その実験では、まず幸福であることが人間にとっていかに重要であるかということが書かれた記事が載った偽物の新聞を被験者に読ませた。記事を読ませたのは、被験者の価値観を操作するためで、幸福を重視する態度を強めさせる狙いがあった。


 そして、記事を読み終えた被験者に2本の映画のうちいずれかを見てもらった。一方は明るい内容のもので、不利な状況を克服して金メダルを獲得するフィギュアスケーターの物語。もう一方は、突然妻を亡くし、その悲しみを耐え忍ぶ夫の悲劇的な物語であった。

 

 映画を見た後には、被験者自身の今の幸福感を測定する試験を受けてもらった。その結果、悲しい内容の映画を見た被験者の幸福感は映画を観る前とあまり変わらなかった。反対に明るい内容の映画を見た被験者の幸福感は映画を見る前より幸福感が下がる傾向があった。特に幸福を重視する度合いの強い人は、よりその傾向が顕著だった。

 

 

 悲しい内容の映画を見れば、落ち込んで幸福感は下がり、明るい内容の映画を見れば楽しくなって幸福感が増すと単純に考えてしまいそうだが、人の脳はそれほど簡単なものではないようだ。

 

 

その20に続く

 

前 その18

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人の脳の未来予測 その18

強すぎる欲求の弊害

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人の脳の未来予測 その17

 1920年代にオットー・ティンクルパウがアカゲザルを対象にしたある実験を行っている。

 

 

 その実験でティンクルパウは、サルの見ている前でレタスをカップの下に隠した。カップは2つあり、そのうちの1つのカップの下にレタスが隠されている状態にした。そしてサルを一旦部屋の外に出して、再び部屋の中に入れて放した。するとサルはすぐに隠されたレタスをカップから取り出して嬉しそうに食べ始めた

 

 次にサルが見ている前で、今度はバナナをカップの下に隠した。一般的にサルにとってレタスよりバナナは好物だ。

 そして、また一旦サルを部屋の外に出すが、この時こっそりバナナをレタスに入れ替えた

 

 再びサルを部屋の中に戻すと、サルは「バナナが隠されているはずの」カップまで走っていき、カップを掴んで持ち上げた。だが、カップの下にあるのはレタスだ。サルは出てきたレタスに手を伸ばしかけるが、やめてしまう。すると次に床を探し、カップの下を再度見て、カップの中や周囲まで見回した。

 

 その後、さらにバナナを探すが見つからない。挙句の果てに実験の観察者に対して金切り声を上げ始めた。結局、最後はあきらめて、出てきたレタスもその場に残したまま部屋を出て行った

 

 

 ほんの少し前に嬉しそうに食べていたレタスでさえ、サルは見向きもしなくなった。より贅沢なバナナの存在を知ってしまったからだ。ここまで極端ではないにしろ、人間も豊かになると徐々に贅沢になり、以前であれば喜んだことも喜ばなくなる。人間の脳は手に入れたものでは満足できず、また新たな何かを欲しがる。

 

 

その18へ続く

 

前 その16

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人の脳の未来予測 その16

 前回登場した経済学者のダニエル・カーネマンが提唱する人の特性に「焦点錯覚」というものがある。それは「人は何か情報が手に入ると、それを過大視し、他の情報を過少視してしまう傾向がある」という特性だ。

 

 

 人は収入が増えれば、それまで買えなかったものが買えるようになり、「お金が入って、何かを買えば幸福を感じられる」という情報を得る。ただ、これを過大に重要視してしまうと他の情報にあまり目を向けなくなってしまう。

 人の幸福にはお金以外の要素も大きく関係する。お金があっても人が直面する問題がなくなるわけではない。思いがけない事態に直面したり、ストレスにさらされて体調を崩してしまったりもする。そういった事実に目を向けず、特定の情報に偏ると必ずどこかで頭打ちとなる。

 

 

 また豊かさと幸福度が比例しない別の理由として考えられるのは、満足感というのはあくまで相対的なものであるということだ。仮にあるものを持っていて、それと同じものがもう一つ手に入っても、必ずしも同じ満足感が得られるとは限らない(限界効用逓減の法則)。たとえ現状が豊かでも、以前と較べて豊かさが増していないと不満を覚えてしまう。

 

 

 そういった傾向は、人間だけではなく他の動物にもみられる。

 

 

その17に続く

 

前 その15

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人の脳の未来予測 その15

 人は、「今より収入が2倍になれば2倍幸せに、10倍の収入になれば10倍幸せになる」と思いがちだが、実際はそんな単純な倍々ゲームにはならない。

 

 

 収入の増加による幸福度の上昇は、ある一定の水準まで到達すると頭打ちとなる。つまり、どこかの時点で幸福度の上昇は止まり、それ以降はいくら収入が増えても幸福度は変わらなくなる

 


 2010年にノーベル賞を受賞した経済学者のダニエル・カーネマンの主導で行ったギャラップ調査(※)によると、だいたい年収7万5000ドルを超えた辺りで幸福度の上昇が止まることが明らかになっている。


※アメリカ世論調査研究所が行う世論調査のこと。調査精度が高く、民間の世論調査会社の調査としてはアメリカで最も信頼性が高い。

 

 

 また同じ2010年に、経済学者のリチャード・イースタリンが自身が1974年に発表した学説(通称「イースタリンの逆説」)の最新版を発表した。調査は複数の大陸の先進国・発展途上国で行われ、その結果、国が豊かになり始めた頃はそれにつれて国民の幸福度も上がっていくが、10年もしないうちに豊かさの向上と幸福度の上昇は比例しなくなる。つまりこの学説によると、国の豊かさとその国民の幸福度は必ずしも相関しないとされている。

 

 

その16へ続く

 

前 その14

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人の脳の未来予測 その13

 2010年、心理学者のケアリー・モアウェッジはある実験を行った。

 それは、コインランドリーの洗濯機にコインを入れて、洗濯機が回っている間にチョコレートを食べている自分を被験者に想像してもらうというものだった。

 

 この実験では被験者を2つのグループに分けて、それぞれ入れるコインの数と食べるチョコレートの数を変えた。洗濯機に入れるコインは入れた数で洗濯機の回る時間が変わり、たくさん入れるほど長時間洗濯機が回るという設定で行われた。

 

 

 1つ目のグループには、想像の中でコインを3枚入れて洗濯機が回っている間にチョコレートを30個食べるという想像をしてもらい、2つ目のグループには、30枚のコインを入れて洗濯機が回っている間に3個のチョコレートを食べることを想像してもらった。

 

 つまり想像の中で、最初のグループはわずかな時間で大量のチョコレートを食べ、もうひとつのグループは長い時間で少量のチョコレートを食べたことになる。

 

 その後、今度は想像ではなく実際に大きな容器に入った大量のチョコレートを出し、好きなだけ食べてもらった。

 

 

 すると、想像の中で大量のチョコレートを食べたグループは実際に出されたチョコレートをあまり食べることが出来ず、逆に想像の中で少量のチョコレートしか食べなかったグループは実際に出されたチョコレートをたくさん食べた

 

 ただし、別の実験で想像の中で大量のチョコレートを食べた人に大量のチーズを出して好きなだけ食べてもらった場合、何もしていない人と同じだけ食べたという結果となった。つまり、想像の中で何か食べても、他の食べ物の食欲には影響しないということが分かった。

 

 余談だが、想像の中で大量のチーズを食べた人に、実際にチーズを食べてもらうと、チョコレートと同様にあまり食べることが出来なかった。

 

 

その14へ続く

 

前 その12

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人の脳の未来予測 その12

 前回のスムージーの実験のように実際に代謝や消化に影響を与えるようなプラシーボの実験は他にも行われている。

 

 ある実験では「カロリー量を伝えた上で」チョコレートミルクシェイクを飲んでもらった。

 この実験では、チョコレートミルクシェイクを飲む前に伝えるカロリー量を人によって変えた。ある人には380キロカロリー、他の人には620キロカロリーや140キロカロリーと差をつけて伝えた。そしてシェイクを飲む前後に、採血を行いグレリン(※)の血中濃度の変化をみた。

 

※胃から分必されるペプチドホルモンの一種。脳に「空腹」を伝え、食欲を増進させる。

 

 その結果、全員が同じものを飲んだにもかかわらず、摂取カロリーが多いと思って飲んだ人の血中グレリン濃度は急激に下がり、摂取カロリーが低いと思って飲んだ人の血中グレリン濃度はほとんど変化がなかった

 

 

 一方こういった思い込みが悪い方に作用する場合があり、そういった時は注意が必要だ。たとえば、ダイエットをしていて「自分はダイエットをしている」と思い、カロリーや脂肪などが少ない食品を食べていると信じ込むと空腹を感じやすくなる。その結果、食欲が満たされず悪循環に陥ってしまう。

 


その13に続く

 

前 その11

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人の脳の未来予測 その11

カロリーのプラシーボ!?

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人の脳の未来予測 その10

 前回「流れ」の検証を紹介したギロヴィッチ、ヴァローネ、トヴェルスキーの3人の心理学者は、その後3つのプロバスケットボールチームで同様の調査を行ったが、やはり「流れ」は存在しなかった。

 

 ただ、通常バスケットボール選手のシュートはコイン投げとは違って、相手のディフェンスによって成功率が下がる可能性がある。

 そこでディフェンスの影響を考える必要のないフリースローだけを対象に再度調査を行ったが、結果は変わらなかった。

 一度成功した後のフリースローも一度失敗した後のフリースローも、成功率は平均75%だった。

 

 

 その後、何人もの研究者が統計学的手法で「流れ」の存在を検証する調査を行った。そして最初の研究から20年が経過した頃に総括が行われた。

 

 その時の結論は

 

『流れ』の存在を完全には否定できないが、それを支持する統計学的証拠は非常に限定的なものにとどまる」(※)

 

といったものだった。

 

※ボウリングや蹄鉄投げといった競技者が常に同じ動作を繰り返し、対戦相手から一切の妨害を受けない種類の競技ではわずかながら「流れ」の存在を暗示する証拠も見つかった。他にはテニスやバレーボールといった一部の競技で、弱い流れが存在する可能性が指摘されている。ただ、どれも「流れはある」と明確に言い切れるほどのものではない。

 

 

その11に続く

 

前 その9

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人の脳の未来予測 その9

「流れ」は存在するのか?

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人の脳の未来予測 その8

 前回に「急ぐことが必ずしも悪いことではない」という実験結果を紹介したが、「決まった動作を繰り返す」という方法も良い結果に繋がる。

 

 ある実験によると、バスケットボールのフリースローの前に常に決まった動作(何度かボールをバウンドさせ深呼吸をし、ゴールに目をやってから額の汗をぬぐう など)を行う選手はフリースローの成功率が84%に達するのに対し、そういった決まった動作を行わない選手の成功率は71%にとどまった。

 

 

 またプレッシャーに対する意識を変えることによって良い結果に繋げられることも分かってきた。

 

 掌に汗をかいたり、心臓の鼓動が速くなったりなどプレッシャーがかかった時にでる現象に対して、「良くないこと」「競技に悪影響を及ぼすこと」と捉えるのではなく「興奮が高まっている証拠」と捉えるように指導したところ何も言われなかった時よりも結果が良くなったという実験結果が出ている。

 

 

 さらに、普段の練習からプレッシャーのかかる状況で行うことによって本番でのミスを減らせるのではという考えで、ある実験が行われた。

 

 セミプロレベルの2つのバスケットボールチームにいくつかの状況・条件でフリースローをしてもらい、その成功率の変化を調べた。

 

 まずは2つの状態でフリースローを行った。

 

①何もプレッシャーのない普通の状態

 

②プレッシャーのかかった状態

 

※プレッシャーのかけ方は、プレーを録画する・成功率によって賞金を出す・コーチや他の選手にもじっくり見られる・「これが決まれば試合に勝てる」という想定で投げる などが行われた。

 

 結果、プレッシャーのかかった状態ではどの被験者も5%ほど成功率が下がった

 

 

 そこで今度は2チームに違ったアプローチでフリースローの練習を行ってもらった。次の実験までにどちらのチームにも9回の練習を行ってもらったが、一方のチームには普通に練習するように指示し、もう一方のチームにはプレッシャーをかけた状態で練習するように指示した。

 

 

 数週間後、2回目の実験を1回目と同じように行った。

 

 結果、普通の練習を行っていたチームの被験者はプレッシャーがかかると成功率が下がったのに対して、プレッシャーをかけた状態で練習したチームは、プレッシャーがかかった状態でも成功率が下がらなかった。それどころか成功率が上がったのである

 

 

 こういった事例からナショナルチームレベルでプレッシャー対策の練習を行う国々も出てきている。

 

 

その9に続く

 

前 その7

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人の脳の未来予測 その7

 これまで紹介してきた実験結果等から、一流のスポーツ選手にとって予測や先読みと動作の最終目的への集中が非常に大切なことであることは分かった。

 

 ただ、この予測能力を阻害しないための万能の方法というものは現在のところ存在しない

 

 また集中しすぎるのも良くないことが別の実験で明らかになっている。

 

 

 心理学者のシアン・バイロックはゴルフの上級者と初心者を被験者として、2種類のパターのどちらかを使ってパットをしてもらう実験を行った。1つは普通のパターで、もう1つはS字型をしていて異様に重いという変わったパターを使用した。

 

 まず全員が距離を5通りに変えて合計100本のパットを打った。その際「正確さも大事だが、出来るだけ急いで打つように」と指示が出された。

 その後、全員が再度同じように100本のパットを打ったが、今度は「どれだけ時間をかけてもいいので、とにかく正確さを大事にして打つように」と指示が変更された。

 

 結果、S字型の変わったパターを使った被験者は、上級者・初心者ともに時間をかけた方が総じて結果が良かった。一方、普通のパターを使った場合、上級者の被験者は時間をかけた方が結果は悪くなった

 

 時間をかけるということは、頭で考える機会が増えやすいことも意味する。特に上級者の場合は、下手に頭で考えると出来るはずのことが出来なくなってしまう。習熟度によっては急ぐことが必ずしも悪いとは言い切れないのだ。

 

 

その8に続く

 

前 その6

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